ここから本文です。
スギカミキリ被害の実態と被害発生危険度の推定
研究報告No.17(要旨)
この研究は、茨城県全域を対象に、スギカミキリ被害の実態把握及び被害発生危険度の推定を目的に実施したものである。得られた成果は次のとおりである。
1.被害実態把握の基礎として、スギの幹表面の被害症状と材内部のスギカミキリ被害との関係を調べた。その結果、精度良く材内被害の実態を推定する調査法として、次の2種類を使い分けるのが適当と判断した。
(1)複数の調査者が分担して調査する場合:林野庁(1983)の区分(表-1)のうち、区分0、I、3を用い3段階の区分で行う。
(2)被害材を割材した経験を豊富に持つ特定の調査者が調査する場合:前述の区分のうち、区分0、I、2、3を用い4段階の区分で行う。
2.県内全域のスギカミキリ被害を正確に把握するため、民有林でのスギ分布に応じ340ヵ所の調査林分で、1981年1~3月の間、実態調査を実施した。そして、スギカミキリによる被害状況を表現するため寄生率、被害率、被害木の合計脱出孔数等の5種類の程度を算出した。寄生率はスギカミキリ幼虫が寄生したかあるいは成虫が脱出したと推定されるスギの本数割合。被害率は成虫が脱出したと推定されるスギの本数割合。被害木の合計脱出孔数は樹幹の被害形態区分3のスギを被害木とみなし、全被害木で確認された脱出孔数の合計値である。その結果、寄生率は0~55%の範囲を示し、平均値は7.8%であった。被害率は0~29%の範囲を示し、平均値は2.4%であった。被害木の合計脱出孔数は0~79個の範囲を示し、平均値は6.4個であった。また、全域調査後、スギカミキリ被害のひどい林分を意図的に探した結果、寄生率及び被害率が50%を越える被害のひどい林分も確認された。
3.340ヵ所の全域調査結果をもとに、スギカミキリによる被害程度と被害に関与すると考えられる気候、表層地質、地形、土壌、保育、スギの健全度等の要因との関係を解析した。その結果、被害程度と取り上げた36要因のうち25要因は関係があり、被害の発生は多数の要因に左右されていることが明らかになった。次に、被害程度と主要な要因との関係を解析した結果、要因の影響を確率的に判断する必要があることを明らかにした。例えば、被害程度と温量指数との関係は、『温量指数の増加に伴い、被害程度のより高い値が出現する確率が高まる』と理解すべきであった。
4.次に、前述した被害程度と要因との関係を考慮し、一定以上の被害が出現する条件を気候・立地要因の面から確率的に明らかにした。一定以上の被害として被害率10%以上の出現を目安とし、出現する確率として10%即ち1/10の確率を用いた。1/10の確率で出現する高い被害率と13の気候・立地要因との関係を検討した結果、11要因で、被害率10%以上の林分が1/10以上の確率で出現する条件を設定できた。それらは、次のとおり。
温量指数=100以上、乾湿指数=11.5以下、メッシュ内起伏量=49m以下、メッシュ内谷密度=7以下、メッシュ内傾斜度=7度以下、スギ林海抜高=130m以下、表層地質区分=未固結堆積物・泥・沖積世、固結堆積物・互層(alt1)・古生代、火山性岩石・ローム・洪積世、地形区分=扇状地性低地、ローム台地・段丘、大起伏丘陵地、森林立地区分=2.常磐、15.台地及び低地、12.御前山、13.筑波、土壌区分=灰色低地土壌、黒ボク土壌、褐色森林土壌(黄褐系)、淡色黒ボク土壌、森林土壌区分=適潤性黄色系褐色森林土(偏乾亜型)、適潤性淡黒色土(偏乾亜型)、適潤性淡黒色土、適潤性黒色土。
5.前述の条件が設定できた11要因の内、メッシュごとの情報が県内全域の地図あるいは資料として整っている9種類の気候・立地要因を用い、要因ごとの条件を満たすメッシュを明らかにした。次に、メッシュ単位に、いくつの要因の条件を満たすかを求め、その程度にもとずいて被害発生危険度を推定した。その結果、県内全域を被害発生危険度によって4段階に地域区分できた。
6.本研究が、被害実態を情報化し、被害発生危険度推定の手法を確立した点で意義が大きく、なおかつ実際の被害防除技術確立の上で有効なことを指摘した。
|
より良いウェブサイトにするためにみなさまのご意見をお聞かせください