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更新日:2017年7月24日
「ベンチャーリンク」平成20年3月号に掲載された、茨城県知事と山海嘉之(サイバーダイン最高経営責任者)の対談記事です。
橋本昌茨城県知事とサイバーダインの山海嘉之CEOには共通の思いがある。世界的視野で住みよい社会を築くことだ。少子高齢化を補うために国際舞台で活躍できる企業の育成に力を注ぐ橋本知事。国内外の優れた頭脳と技術を結集して福祉・介護分野などで役立つロボットスーツHALを開発した山海CEO。つくば・日立・東海など、科学技術創造立国日本を支える茨城県の魅力について、ふたりが語り合う。
山海CEO:茨城県では今、「人が輝く元気で住みよいいばらき」を目標として、産業を活性化させるため「産業大県づくり」を推進していらっしゃいます。産業立地や基盤整備の面で着実な成果が上がっているようですが、どのような狙いで各施策に取り組んでいらっしゃるのでしょうか。
橋本知事:「産業大県づくり」の狙いは、茨城県がこれからの日本の国民生活を支えていける県になることです。エネルギーや食料を輸入に頼っている日本にとって、約28億人と世界人口の42%を占めるBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)や東南アジア諸国の経済成長は脅威となっています。そういう中で、日本が今後、エネルギーや食料をどのように確保していくか、国家的に大きな課題になるでしょう。一方、地方では人口減少がすでに始まっています。これもまた深刻な問題で、例えば公立病院の経営が厳しくなっているように、少子高齢化が進む地域の福祉水準を保つのは非常に困難です。日本は今後、外貨を稼がなければ、これまで同様の生活が確保できなくなっていくのではないでしょうか。私は茨城県が外貨を稼げるようになることを目指して産業大県づくりを推進しています。具体的には、中小企業の振興をはじめ、企業誘致、さらには最先端の科学技術拠点づくりに取り組んでいます。
山海CEO:知事のご説明に出てきた「最先端の科学技術拠点」は、この県の特徴の1つですね。特に、私が住んでいるつくば市は、世界的にブランド力が高まってきています。
橋本知事:それはうれしいですね。どんなことから、それを実感されていますか。
山海CEO:例えば、私が所属する国際的学会の委員会の出席者のうち、約3割はつくばから来たりすることもあるのですよ(笑)。また、こんな例もあります。当社の社員募集に応募する人の約6割は海外からですが、中には、以前につくばの研究所にいた人もいます。海外から見ても、「つくばに行けば最先端技術がある」という拠点形成ができれば、どんどん人も集まってくると思います。ただ、惜しむらくは、大学や国の研究機関が人や社会に役立つ有用な研究にあまり目を向けていないような気がします。研究だけに没頭しすぎている傾向が強いことですね。知事のお考えにもあるとおり、科学技術は産業にもっと直結している部分があってもいいはずですが、これまでは残念ながら顕著な成果があまり挙がっていません。しかし、この問題も解決の突破口が見え始めているような気がします。大学の研究所も新産業創出にやっと目を向け、本来、工学が目指すべき「社会に役立つものを作って還元していく」ことを進めるようになりました。特に、つくば地区はその流れに合致するエリアです。
橋本知事:日本における科学技術の一大拠点は、やはり、東京や「つくばからなるエリア」だと思います。つくばには外国人も含めて約2万2000人の研究者がいますが、その内、日本人の博士号取得者は5千700人に達しています。すぐ近くの東京には国内外の“頭脳”が集まっていますので、それらの優秀な人材の交流を活発化していくことが、日本の将来にとって非常に重要なことであると痛感しています。
山海CEO:茨城県の南部地域、特につくば市は、つくばエクスプレス(TX)の開通によって、東京への交通の便が格段によくなりました。例えば、午前中に東京の委員会に出席して、午後はつくばの大学で講義を行ない、そして夕方にまた東京での委員会に出席することもできるようになりましたから(笑)。
橋本知事:高速道路も着々と整備されています。首都圏中央連絡自動車道(圏央道)が2012年に全線開通予定です。また、北関東自動車道も今年4月に桜川筑西ICまで伸びて東北自動車道への接続も2009年と目前に迫ってきました。
山海CEO:圏央道の存在は大きいですね。つくばから成田国際空港まで30分強で行けるようになるわけですから。私はTXや圏央道の整備計画があったからこそ、茨城県南部にサイバーダインの本社を設けました。成田空港への交通手段は1本の線に過ぎないように見えますが、実はこの1本が産業にとっては大きいのです。TXと圏央道の整備によって、必ず、つくばは最先端科学技術の一大拠点になるものと期待しています。
橋本知事:つくばだけではなく県全体が日本の最先端技術の拠点となるように導きたいですね。企業や研究者、科学者が活動しやすい環境をつくるためにも、できるだけ早く陸・海・空の交通ネットワークを充実させたいと考えています。海上交通としては常陸那珂港や鹿島港の整備、そして空の交通としては2010年3月の開港に向けて茨城空港の整備を進めています。これが開港すると、国内の主要都市への交通の便が格段によくなります。
山海CEO:交通網の発達は、企業活動にとって非常に大きなメリットになります。つくばは関東圏内ならば自動車で容易に動けますが、それを超える地域へ行こうとすると、とたんに5~6時間もかかるほど距離感があるのが実情です。
橋本知事:例えば、羽田空港まで遠いですからね。たまに会議の時間がオーバーして飛行機に乗り遅れたなんて話も聞きます(笑)。
山海CEO:その点、茨城空港が開港すれば、国内での移動がたいへん便利になります。茨城空港は、茨城県における国内移動拠点として期待しています。
橋本知事:国内移動拠点としての位置づけにとどまりません。例えば、海外ではビジネスジェット機を使った企業訪問なんてことが、ざらにあるわけです。一方、日本にビジネスジェット機で来ようと思っても着陸する場所がない。だから日本には行かないという企業トップが海外にはたくさんいます。今後、ますますビジネスがグローバル化していくとともに、空港の必要性も高まります。将来的には空港を持っていない地方は、ビジネスなどいろいろな側面でハンディを負うようになるでしょう。
山海CEO:これらの交通ネットワークの整備などが功を奏して、企業誘致も進んでいるようですね。
橋本知事:昨年は、これまで取り組んでいた企業誘致が大きな成果となって実を結びました。常陸那珂地域に大手建設機械メーカーのコマツや日立建機の新工場が操業を開始しました。また、鹿島地域では国内最大手製材会社の中国木材、県西地域では国際的な産業用ロボットメーカーのファナックが、相次いで操業を開始しました。企業誘致が好調なのは、企業にとっていかに活動しやすい県かということを理解していただいているからだと思います。茨城県は、企業誘致によって、県内の雇用を促進するとともに、日本経済の発展という面でも貢献していけるように進化を遂げています。
山海CEO:企業数や雇用の面で、茨城県の地域産業を支えているのは中小企業です。その振興対策について、どのように取り組まれていますか。
橋本知事:中小企業の活力なくして、茨城県の活性化を図ることはできませんから、県としても注力しています。しかも茨城県には優れたものづくり技術を有する企業が数多い。
山海CEO:そうですね。中小企業庁の「元気なモノ作り中小企業300社」にも8社が取り上げられていますから。
橋本知事:県では、そのような新事業などへの取り組みに意欲的な企業に対して、新製品・新技術の開発をはじめ、大学や大企業OBなどの専門家派遣による生産性の向上、融資や投資による資金調達の円滑化、地域産業資源の活用促進、東京ビッグサイトにおける産業大県フェアや関東5県ビジネスマッチング商談会の開催による販路開拓など、企業の成長段階に応じた総合的な支援策を講じております。
山海CEO:知事は本当に茨城県全体を見渡して、かなり細かく戦略的に多彩な施策を展開されていらっしゃいます。日立やひたちなか、鹿島などに立地している企業など、茨城県には非常にしっかりとした技術を有する企業があるので、当社もできるだけ茨城県の資産を活用しながら、事業を拡大していきたいと思っています。
橋本知事:私は今年の幹部職員向けの年頭所感でも、サイバーダインのことに触れました。革新的な技術で新事業への取り組みに意欲的であり、「産業大県づくり」をリードする企業の一つとして、県でも期待をかけているからです。
山海CEO:ありがとうございます。当社が成功すれば、それをモデルに茨城モデルというものができるかもしれません。さらに茨城モデルを参考に様々な企業が参入し、県として得意分野に育っていくといいなと思っています。
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