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更新日:2017年7月26日
産業立地 2013年5月号に掲載された、知事と一般財団法人日本立地センターの鈴木孝男理事長の対談記事からの転載です。
首都東京に近接し、最先端の科学技術が集積するつくばを擁し、陸海空の広域交通インフラも充実している茨城県。東日本大震災後に落ち込んだ企業立地実績も大幅に回復してきている。茨城県ならではの立地優位性を幅広くPR し、積極的なトップセールスを展開する橋本知事を訪ね、その取組や展望についてお聞きした。
鈴木 本センターは今年4月1日、一般財団法人として新たなスタートを切りました。今回は新法人への移行後、本誌での最初の対談となります。まず、ここ数年知事が特に力を入れておられること、茨城県のセールスポイントなどについてお聞かせ願えますでしょうか。
知事 地域企業の活性化や企業誘致を進めるにあたっては、企業がグローバル競争に打ち勝っていけるような条件を整備していく必要があります。そうでなければ企業は海外へ出ていってしまいます。我々がまずすべきことは、交通インフラの整備や、いい人材を供給することなど、基本的な部分が重要だと思っています。
鈴木 茨城県は、陸海空の広域交通インフラ整備が進んでいるという印象があります。
知事 本県も財政的には厳しい状況が続いていますが、そうした中でも交通網の整備を着実に進めてきました。陸海空の交通基盤整備を同時期に実施している県は、全国的にもあまり例がないのではないかと思います。
具体的には、東京から放射状に広がる常磐自動車道に加え、全線開通した北関東自動車道、整備が進む圏央道(首都圏中央連絡自動車道)などの東西を横断的に結ぶ高速道路や、重点港湾に選定されている茨城港や鹿島港、さらには茨城空港などです。また、TX(つくばエクスプレス)を利用すれば、つくば~秋葉原間は45分、新宿までは乗り換えを含めて1時間程度で行くことができます。立地環境という点において、本県の魅力は飛躍的に高まってきていると思います。
鈴木 県内3つの港を統合されました。
知事 平成20年に日立港、常陸那珂港、大洗港の県北3港を統合しました。重要港湾同士の統合は全国初であり、港湾の規模拡大と知名度の向上により港湾のブランド力が強化され、今後の航路誘致に弾みがつくことが期待されます。そして、単に茨城県の港という位置づけにとどまらず、北関東自動車道でつながっている栃木県、群馬県などを含め、より広域的に活用していただけるものと認識しています。
また、東日本大震災においてもその有効性が確認された耐震強化岸壁の整備や防波堤の延伸を進めています。首都直下地震などの際に東京湾の機能を代替できる港湾を目指すとともに、企業の生産活動に伴う取扱貨物量の増加に対応できるよう、岸壁や埠頭用地の早期整備に努めています。平時の利便性が高まり、かつ災害時にも役立つ、そういう態勢が徐々に整いつつあります。
鈴木 茨城空港の活用も進んでいます。LCC(格安航空会社)も参入しているそうですね。
知事 当初、茨城空港については悲観的な見方もありましたが、いち早くLCCに注目し、ターミナルビルの建設や就航対策を進めたのを契機に、各航空会社の関心が非常に高まっています。最初に就航したのは韓国のアシアナ航空、次いでスカイマークが来てくれました。スカイマークでは、いかに無駄を減らして利用者に還元するかというLCCに似た発想のもと、茨城空港をうまく活用していただいています。スカイマークの茨城空港から那覇へ行く便などは、満席の日も出るほどの人気です。
それから、中国初のLCCである春秋航空が茨城空港と上海を結んでいて、搭乗率は9割ほどになります。これほど搭乗率が高い理由の1つは、東京に近いということです。アジア各国の航空会社で東京への就航を希望しているところはたくさんありますが、なかなか全ては乗り入れできないので、そのような中で茨城空港が着目されるのだと思います。さらに、乗客が東京との行き来をしやすいよう、茨城空港発着の航空機利用者を対象に、茨城空港~東京駅間を500円という非常に安い価格で乗車できるバスを運行しています。
利用者の方々には、ある程度お金がかかってもいいから時間が短い方がいいという人と、時間はあるから費用が安い方がいいという人の両方がいます。特に後者のような方々にとって、茨城空港はおもしろい存在になってきているのだろうと思います。世界的に見ても、航空需要は急激に増加しています。今までのように限られた人だけが乗るのではなく、誰でも乗るものに変わってきており、さらなる需要の拡大が見込まれています。こうした流れに乗って、茨城空港の就航路線をさらに増やしていければと思っています。
鈴木 科学技術関係で最先端の研究所等があるのも、茨城県の強みではないでしょうか。
知事 資源小国の我が国が今後、持続的に発展し、世界で確固たる存在であるために、鍵となるのは科学技術です。本県には、つくばや東海村などに、世界に誇る最先端の科学技術の集積があります。これらを生かし、革新的な新事業・新産業の創出を図っていくことが重要だと考えています。
東海村にあるJ-PARCという施設には、県が2本のビームラインを設置しています。これらを活用し、リチウムイオン電池や新薬などの開発、低炭素社会の実現に貢献する水素吸蔵合金の開発などが進められています。こうした施設を多くの企業に活用していただくことにより、新技術の研究開発を支援しているのです。
また、「つくば国際戦略総合特区」においては、つくば市や筑波大学、産業技術総合研究所、高エネルギー加速器研究機構など関係機関と連携し、「次世代がん治療法(BNCT)」の開発実用化、「生活支援ロボットの実用化」、「藻類バイオマスエネルギーの実用化」、「TIA-nano世界的ナノテク拠点の形成」の4つの先導的プロジェクトに取り組んでいます。ライフイノベーション、グリーンイノベーション分野での新事業・新産業の創出を通じて、我が国の成長・発展に貢献することを目指しています。
平成25年度は新規事業として、県立医療大学付属病院を核に複数の医療機関が連携し、ロボットスーツを歩行訓練などのリハビリに活用するための治験を行い、医療機器として承認を目指しています。
鈴木 子供たちへの理科教育にも力を入れておられるそうですね。
知事 日本では、大学の工学部の受験者数がかなり減ってきています。こうした状況を受けて、子供のうちから理科に関心を持たせる必要があるということで、理科教育に徹底して力を入れる取組を進めています。小学校では通常、1人の担任が、受け持ちのクラスのほぼ全教科を教えます。これを、小学校5、6年生の理科は、理科を専門とする教員による教科担任制にしたいと考えています。現在は、各市町村3校ずつモデル的に実施している段階ですが、理科離れを防ぐために、こうした取組が必要なのではないかと考えています。
鈴木 子供の頃からしっかり教育するという点が重要なのですね。
知事 また、世界規模で高校生等を対象に開催される「国際科学オリンピック」というものがあります。そのなかで物理と生物については、それぞれ1年おきにつくば市で国内予選を実施していて、物理と生物のトップクラスの高校生が日本中から集まってきます。こうした場が、互いに刺激し合えるいい機会になっていると思います。いかに関心を高める工夫をするかということも、人材育成に関しては大切です。
今年は、筑波研究学園都市建設決定から50年という節目の年を迎えます。そこで、全国の高校生を対象としたノーベル賞受賞者による講演会や、若手研究者を対象としたシンポジウムなどを開催し、つくばの魅力や「科学技術創造立県いばらき」を全国にアピールしていく予定です。
鈴木 現在、国内中小企業の多くが厳しい状況にあると思いますが、茨城県ではどのような支援策を実施しておられるのでしょうか。
知事 まず、県内中小企業の技術力向上のための取組としては、大学や独立行政法人、民間企業、茨城県工業技術センターなどのOBや、現役の技術関係の専門家、IT関係の専門家などを茨城県中小企業振興公社にテクノエキスパートとして登録していただいております。企業の要請に応じて県内企業に派遣し、新製品・新技術の設計・開発や生産工程の効率化、加工技術の向上など、中小企業が抱える技術的な課題の解決を支援しています。併せて、企業がこの制度を利用する際の費用も安く抑えています。
また、県の工業技術センターにおいては、将来的に成長が見込まれる産業分野の基盤技術の研究開発や、中小企業の技術課題等を解決するための受託研究、受託試験等を積極的に行うことにより、中小企業に不足する研究開発力を補完し、新製品・新技術開発を支援しています。
さらに、成長分野進出に意欲のある中小企業をはじめとする、県内産学官によるネットワーク「いばらき成長産業振興協議会」を平成22年に設立しました。国の成長戦略、有識者の意見、企業経営者の意向等を踏まえ、4つの成長分野「次世代自動車」、「環境・新エネルギー」、「健康・医療機器」、「食品」について研究会を設置し、大企業と中小企業が結びつきを深める貴重な場となっています。
鈴木 中小企業支援を進めるにあたり、技術面での支援とともに、販路開拓の支援も非常に重要だと思います。
知事 その点をフォローするために、営業経験を持つ大手企業OBなどをビジネスコーディネーターとして茨城県中小企業振興公社に配置しています。このコーディネーターを活用しながら、県内外の大手企業などに対して県内中小企業の製品や技術の売り込み、受発注のマッチングなどを進めております。もちろんそれに応えられるよう、先ほど申し上げたような、県内中小企業の技術力をブラッシュアップする取組も同時に進めています。
鈴木 知事をはじめ県や地域全体が熱心に取り組んでおられる成果だと思いますが、企業の新規立地が順調に進んでいると聞いておりますが。
知事 企業誘致については、まず、先ほどお話ししたような広域交通ネットワークの整備を進めるとともに、いち早く県税の減額措置を導入するなど、優遇措置の充実に力をいれてきました。
この措置は、多くの地域で実施している企業誘致補助金とは異なり、仮に本県にその企業が立地しなければ入ってこなかったと考えられる税収(法人事業税)について、当初の3年間分を還元するものです。4年目以降には、しっかり税額を頂くという制度になっており、この他、不動産取得税についても、課税免除を実施しているところです。東京には、産業立地推進東京本部を設けて積極的に企業訪問を実施しております。これにより、過去10年間(2003 ~ 2012年)の工場立地面積が1,317ha、県外企業立地件数が302件と、いずれも全国1位となるなど、全国でもトップレベルの立地実績となっています。
鈴木 東日本大震災の影響もあったと思いますが企業立地に関する震災復興対策として、どのような取組を進めておられるのでしょうか。
知事 一昨年は震災や原発事故の風評被害等により、企業立地実績が大きく落ち込みました。その状況を受けて、それに対応するための制度創設の要望をここ2年間ほど継続して展開し、本県を対象とした2つの立地補助金(「原子力災害周辺地域産業復興企業立地補助金」、「津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金」)を国に創設してもらいました。また、復興特区制度における税制上の優遇措置は、本県は当初全く対象外とされていましたが、国に粘り強く要望や調整を進めた結果、沿岸部を中心とする13市町村が該当となりました。(茨城産業再生特区)
鈴木 復興特区制度における税制上の優遇措置の活用状況はいかがでしょうか。
知事 認定以降、約4カ月にわたって周知に努めた結果、他県に比して一番エリアの小さい特区ながら、申請件数が約425件、新規設備投資見込額が4,200億円超と、全国で一番の活用実績となっています。また、原子力災害周辺地域産業復興企業立地補助金についても、申請が57件、新規設備投資が550億円以上と新たな企業立地に結びついています。
さらに、企業訪問や、東京・大阪での産業立地セミナー、県内工業団地の視察会の開催、新聞・経済誌などで、早急に復旧したインフラの状況や、首都圏への近接性、比較的割安な地価など震災後も変わらない本県の立地優位性を懸命にPRしてきた結果、平成24年の企業立地実績は大幅に回復しました。
鈴木 近年の具体的な企業立地の事例を教えていただけますか。
知事 最近では、日野自動車が、高い技術力を必要とする基幹部品の製造拠点は国内にという方針のもと、古河市に工場を新設しました。雪印メグミルクは、圏央道に近接する阿見町に立地し、国内の乳製品の製造を集約します。また、茨城港(常陸那珂港区)を活用し建機輸出を行っている小松製作所や日立建機は、事業拡大のため、追加の用地取得を決めていただきました。
企業誘致をめぐっては、製造業における海外生産比率が高まり、国内への新規立地が減少傾向にある厳しい環境です。しかし、本県の優れた事業環境のさらなる拡充やPRに努めるとともに、先ほど申し上げた2つの企業立地補助金や、税制の特例措置に加え、国の補正予算で創設された2千億円規模の円高・エネルギー対策の投資促進事業等も有効に活用するなど、より戦略的な企業誘致活動を展開していきたいと考えています。
鈴木 私ども日本立地センターは新法人への移行を機に、50年あまりにわたり歩んできたこれまでの歴史と経験を踏まえつつ今後どのような役割を果たしていくべきか、あらためて検討しているところです。
知事 世界の動向をしっかり見ていなければ何もできない時代になっています。我々はどうしても情報不足になる部分がありますので、国内外の動きや、参考になるアイデアなどを提供していただければ、大いに活用しながら地域づくりを進めていきたいと思います。
鈴木 地域振興のための施策は、全国均一のものでなく各地域の特性に合う弾力的なものである必要があります。グローバル競争への対応も重要性を増しています。本センターは国、地域、産業支援機関、大学、地域金融機関などの取り組みの現状をしっかり理解し、それぞれをつなぐ仲介役となりながら、より柔軟な姿勢で活動し地域の方々のお役に立っていければと考えています。今後ともよろしくお願い致します。本日はありがとうございました。
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