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更新日:2016年5月19日

マツノザイセンチュウによるマツ枯損と防除に関する研究

研究報告No.11(要旨)

第1章緒言

研究は、分布未確認地域であった茨城県に発生したマツノザイセンチュウ被害の実態と防除について報告したものである。

第2章茨城県におけるマツ類の枯損動態

第1節茨城県のマツ林

マツ林は、県総面積の10.8%を占め、広く分布しているが、除・間伐をほとんど行なわない高齢級マツ林が多い。

第2節センチュウ類の関与しないマツ枯損

雷、山火事、塩害、食葉性害虫、ツチクラゲ病等によるマツ枯損量は少ないが、除・間伐を行なわないための被圧等による自然枯損量は、ぼう大なものである。

第3節マツノザイセンチュウによるマツ類の枯損動態

県内2キロメートル×2キロメートルの1、524個の区域に区切り、各区域の枯損状況を毎年調べたところ、茨城県のマツ類の枯損動態は、次のようにまとめられる。

1.センチュウは、1971年に県中央部で初めて確認され、その後各地域に侵入し、1979年には、県下全市町村で確認された。
2.センチュウが確認されても、微害から弱害状態へは簡単に進行しなかった。
3.弱害地域のほとんどは、水戸市、岩井市を中心に同心円状に年々拡大していったものなので、弱害が発生するには、隣接地域が前年度すでに弱害になっているか、被害材の大量持ち込みなどで、センチュウ・カミキリの生息数の高まりが必要であった。
4.弱害がひとたび発生すると、何も防除を行なわなければ、茨城県のような比較的寒冷な地域でも、その年の気象条件に関係なく、被害は、着実に中害、激害、激甚へと進行していった。
5.1978年度のような異常気象(夏季の高温、少雨)条件下では、激害、激甚状態への進行は、広範囲に早かった。
6.異常気象の年に、乾燥性土壌の地域で、前年度すでに弱害以上の状態が発生している場合、壊滅的被害が一挙に発生し、ぼう大な被害量が記録された。
7.残存生立木がほとんと見られないような被害は、乾燥性土壌地域以外では、ほとんど観察されなかった。
8.予防散布を行なえば、激害、激甚地域でも、枯損の進行は停滞し、微害、弱害、中害地域では、その効果はより顕著であった。
9.伐倒駆除は、微害、弱害地域では有効で、枯損の進行は停滞し、被害を微害に持ち込むことは可能であった。

第4節固定調査林におけるマツ枯損状況と松くい虫発生状況

激害発生の最大の要因は、枯損木を林内に放置することであり、枯損木の伐倒駆除が行なわれていれば、激害は発生しなかった。

第5節ニセマツノザイセンチュウの関与するマツ枯損

枯損原因が特に見られない、若令から壮令の孤立木の被害が目立ち、集団枯損は、筑波町において観察された。マツノザイセンチュウの侵入後は、ニセマツノザイセンチュウは検出されなくなった。

第3章媒介昆虫マツノマダラカミキリの生態

第1節マツノマダラカミキリの生活史

平年の気象条件下では、羽化脱出は、6月中旬に始まり、7月上旬に最盛期になり、8月上旬に終了する。産卵は、6月下旬に始まり、7月下旬に最盛期になり、9月上旬に終了する。蛹室の完成は、9月に始まり、11月に最盛期になる。蛹化は、5月中旬に始まり、6月上旬に最盛期になり、7月中旬に終了する。羽化(材内成虫)は、6月上旬に始まり、6月下句に最盛期になり、7月下旬に終了する。

第2節2年1世代のマツノマダラカミキリ

9月以後に産卵されたものは、すべて2年1世代となる。2年1世代のカミキリの発生は、1年1世代のものより1週間以上早くなる。なお、2年1世代の成虫は、センチュウ保持数が少なく、センチュウ防除の面からは、問題にならないと考えられた。

第3節マツノマダラカミキリの死亡について

卵期、樹皮下幼虫期の死亡は少ない。しかし、蛹室形成後羽化脱出するまでの死亡率は高いが、天敵昆虫類、鳥類によるものは少なく、原因不明のものが大部分である。原因不明のものからは、病原微生物が検出されたものがある。成虫期の平均生存期間は、飼育状況、年度により、かなり変動がある。

第4節マツノザイセンチュウ保持数の年次変動

水戸市小吹町、那珂町戸の調査林では、カミキリのセンチュウ平均保持数は、年々減少した。

第5節マツノザイセンチュウのマツノマダラカミキリからマツ樹体への侵入経過

カミキリのセンチュウ保持数の10%程度が、マツ樹体内へ侵入する。センチュウの離脱は、羽化脱出直後から盛んに行われ、センチュウのマツ樹体への侵入は、7月中~下旬に最盛期になる。

第4章マツ被害木に対する伐倒駆除

第1節マツ枯損木の出現時期

平年の気象条件下では、マツ枯損木は、夏季10%、秋季50%、冬季30%、春季10%と、ダラダラ発生するが、夏季に高温の年には、夏季、秋季に発生する枯損木が多くなった。

第2節時期別枯損木からのマツノマダラカミキリの発生数

6~12月の枯損木からのカミキリ発生率は、全体の92.6%であるので、枯損木伐倒駆除は、6~12月の枯損木に重点を置けばよい。

第3節マツノマダラカミキリの樹皮下幼虫の殺虫実験

樹皮下幼虫に対し、規定の薬剤散布をすれば、乳剤でも油剤でも、高い殺虫率があることが、再確認された。

第4節蛹室内のマツノマダラカミキリに対する殺虫実験

MEPは0.2%、MPPは1%程度の濃度の油剤を、表面積1平方メートルあたり600cc散布すれば、冬季処理でも、羽化脱出時には90%の殺虫率が期待される。なお、MEPとMEP・EDB、MPPとMPP・EDBの間には、殺虫率に有為な差はなかった。

第5節高周波によるマツノマダラカミキリ、マツノザイセンチュウの殺虫実験

枯損木1キログラムに対して、周波数2.45GHz、出力0.6kwの高周波を、3分30秒以上の割合で照射すればカミキリが、5分以上照射すればセンチュウが、すべて死亡した。

第5章マツ生立木に対する予防散布

第1節薬剤散布されたマツ枝へのマツノザイセンチュウの樹体侵入マツ枝にかなり高濃度のMEPを散布しても、カミキリが後食すれば、センチュウの樹体侵入を完全に阻止できないが、平均侵入頭数は、対照区と比べると、激減していた。

 

第2節予防散布の効果

固定調査林の枯損率調査でも、微害地域で緑を保っている予防散布したマツ林を観察しても、予防散布は、マツを枯損から効果的に守る。

第3節マツノマダラカミキリ成虫に対する数種薬剤の経口毒性と接触毒性

経口毒性(LD50-μg/頭-MEPまたはMPPの純量)は、0.520(MEP・EDB混合剤)、0.552(MPP・EDB混合剤)、0.578(MEP単剤)および0.679(MPP単剤)であり、接触毒性は、0.362(MEP単剤)、0.406(MEP・EDB混合剤)、0.499(MPP単剤)および0.524(MPP・EDB混合剤)であった。なお、経口毒性にも接触毒性にも、各薬剤間に、有為な差はなかった。

第4節ヒノキの薬害現象

ヒノキのなかには、化学成分に対して高感受性を示すクローンが、存在するようであった。

第6章マツ生立木に対する薬剤の樹幹注入


第1節薬剤の樹幹注入によるマツノザイセンチュウの防除実験顕著な予防効果が、ある薬剤に認められた。治療効果は、まったく否定できなかった。

第2節薬剤の樹幹注入によるマツノマダラカミキリ成虫の防除実験

顕著な殺虫効果が、ある薬剤に認められた。

第7章抵抗性選抜育種

第1節日本産マツの抵抗性センチュウ抵抗性には、アカマツのクローン間差があるようであった。

第2節マツ類交雑種の抵抗性

遺伝的抵抗性があると言われるテーダマツ、少ないと言われるリギダマツ、未調査であるフクシュウマツとクロマツの交雑種には、強い抵抗性があるようであり、雑種強勢があらわれたと考えられた。

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